| 樋口博徳さんの絵画2点が出品されている青枢展なる展覧会を観に、上野の東京都美術館に行ってきました。(青枢展は22日までやっています。)
樋口さんの絵は、どんなに数多く絵が並べてあっても、すぐに見つけ出すことが出来ます。淡くて優しくて独特の色づかいです。樋口さんは、もう6,7年になるでしょうか、毎年行われるその展覧会の大賞を獲得され、以後、審査員をされています。 今年のは、「那須高原私の美術館賞」獲得です。那須高原で個展を開くことが出来る賞なのかな?
いつもは、抽象画っぽいけれどもテーマをもった絵です。独特の青緑を基調とした中にスッと赤の線が入ったりして、それが何とも言えない色合いを出しているのが好きです。しかし、今年のはいつもと画風が違いました。
「のたうち回って描いた」とおっしゃるのが痛いほどに感じられる絵でした。1枚は、「その後のイソップ(星とチグリス川)」です。昨年はのどかな「イソップ物語」を描いたのでした。イラクの川にいろいろなものが流れています。人が流れています。サダムに似た涙を流すイラク男もいます。他方、いかつい欧米のお偉いさんらしき人たちも対極にはいます。戦車の車輪も見えます。星条旗も流れています。星条旗からこぼれだした星もいっぱい川の流れに呑み込まれています。悲しみと怒りと呻吟とが錯綜しています。砕け散る星条旗に力づくの帝国の未来が暗示されてように感じました。
もう1枚の絵、「夢見る時間」は不思議な絵です。銀座か渋谷か新宿か、どこか繁華街の商店街のあるお店のシャッターが下りています。この店は21時閉店ですから、もう夜の10時頃なのか、まだ人通りがあるようで、スーツ姿のサラリーマンか、しゃれた服装のキャリアウーマンたちがこの店の前を足早に通り抜けていきます。その姿は透明人間のようで描かれていません。ネクタイやスカーフや服の一部が風のように通り過ぎていくらしい気配が描かれています。そして、店の前には横たわって毛布にでもくるまった人の影。かれは夢見ているのでしょう。影の方が存在感があって、多忙に街を行き過ぎる人たちの方が透明なのです。虚なのです。
樋口さんの絵は、社会の矛盾から目を背けず、だからこそのたうち回って、虫の視座で、金光大神のように凹い所に自分を据えて世界を見つめているのだ、と思いました。
樋口さんは、その先を描きたい、と言われます。 その先が楽しみです。
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