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金光教大崎教会へようこそ。
こちらでは、大崎教会のご紹介をさせて戴きます。
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金光教大崎教会ご造営 設計主旨

林建築設計室代表  林 隆

1.はじめに

金光教大崎教会の新築計画にあたり、次のようなテーマを掲げ設計を進めた。
1)宗教施設としての機能と形態の融合
2)敷地を最大限有効に使える合理的な計画
3)自然環境(光や風)との調和、省エネ
4)街並みの中で存在感のある外観

2.配置計画

 周囲の環境や地形・機能・法的な規制などを総括して、敷地のゾーニングを進めた。いろいろな可能性がある中からベストな状態に絞り込んでいく過程の中で、機能と形態の両面に「円を内包する」というキーワードが見つかった。その時点で最終案にかなり近いスケッチができていた。その大きな方向性・骨格が決まってからは、当初のイメージの筋を通すべく細部の検討や色付けをして最終案に至った。
 
 キーワードが見つかったのは、1999年11月3日の未明だった。田中先生に一刻も早くお伝えしたくてFAXしたその時のコメントをご紹介します。
「田中元雄様、お世話になっております。
外観について検討中ですが、ひとつの考え方としてまとめてみました。
少々荒っぽい段階ですのでプラン的にも調整が必要ですが、大枠として
ご検討いただければと思います。

1)宗教施設としてのイメージの構築。
2)周囲の住宅・事務所などの箱的な建築群に埋没しない存在感。
3)勾配屋根以外の形態。(2階建てとした場合)
4)角地という恵まれた立地条件を生かした表情。

などについて考えてみたのですが、方法としましては

@周囲の景観の中で際立った特異な・複雑な表現をする。
A建物全体を極力シンプルな表情にすることにより、緊張感を生み煩雑になりがちな街並みの中に存在感を示す。

という正反対な考え方が成り立つと思います。今回はAの方法により
新しい教会の在り方を提案してみたいと思いました。
 そこで具体的な形として「無表情な曲線の大きな壁」を造ってみました。
複雑になりがちな窓・庇・テラスの手摺・サービスヤード内の物などを
壁の中に包含してしまいます。壁は自立していますので上記の物とは
切り離してデザインできます。また円形は方向性がなく角地であってこそ
はじめて生きてきます。そして神殿のアール壁とも関連付けができそうです。
実は数多くの案を創ってみたのですが、極力シンプルにシンプルにと
考えているうちにこの究極の型にたどり着きました。
 次から次へと違うことを言って申し訳ありませんが、少し視界が開けて
きたような気が、勝手にしております。
大きな方向性としましていかがでしょうか。ご検討よろしくお願い致します。」

今振り返ると、この日を境に今まで解決できなかった諸問題がすべて吹っ飛んだような、大きな分岐点だった。この建物の配置計画が可能になったのは、敷地のもっている力が大きかったのではないかと思う。

3.平面計画

 一階を教会、二階を祭員控室・教職舎という構成にし、各機能を階ごとに明快に分離することができた。そのため動線も短くなりプライバシーの確保という点でも有利になった。外観に表れている円弧の壁は内部にも表現され、御神殿の曲面とともに天地の無限を象徴している。
 内部の建具を開放することにより建物全体が一体の空間になり、さらに駐車場・コート・北側路地の外部空間も取り込んで、敷地いっぱいの有効利用もできる。また何通りものサークル状の動線が考えられる。
 また二階には大きなテラスを設け、手摺部分を少し高めの壁で大きく囲うことにより、逆に自然(雨、風、光など)を純化して導入することができ、空気の色や風の匂いといったものを感じることができる

4.各部の計画

(1)御神殿・お結界・お広前

 あえて複雑な造作は行わず白の塗り壁と木曾檜のみでまとめ、円弧を描く壁の存在感を強調している。
 素朴でクセの少ない仕上げ材を使うことで、視線に映るのは、広さ高さ明暗など無形のものになるという効果もある。朝昼晩、四季などの微妙な時間や天候の変化を室内に取り込んで映すには、無地のスクリーンのようなイメージがいいと考えた。
 平面的には正面に向かって左右対称形とし、お結界の位置はそこからはずしている。
独立して立つ柱は三つの領域を隔てる装置であり、壁から遊離して立っているため空間を引き締め、その空間の象徴的存在ともなっている。

(2)玄関・談話室

 出入口は、初めに開けるドアが優しいと嬉しい。玄関には「こんにちは」に応えてくれる何かがほしかったので、軽い片引きの木製ドア、床面のレールの省略、低い天井、仕上げ材の選定、開放状態でもうまく納めるなどの工夫をして、できるだけヒューマンスケールにしたかった。
 外部とお広前とを結ぶこの中間領域は、室内に入るという気持ちの切り替えがなされる場でもあるため、内外の境界を曖昧にしたかった。そこで建築的にもあえて内部の床や壁に、外部で使われている仕上げ材を持ちこんでいる。また外の天井高をそのまま内部につなげている。
 円弧の壁面に沿って、絞り込まれるように玄関から談話室へと導かれ、右に向いたその瞬間、お広前から御神殿まで広がる奥行き感のある空間が現れ、場面を転換させている。

(3)コート

 お広前にはぜひとも自然の光と風を入れ、そして南側道路からも直接アプローチできる動線を確保したかった。そこで格子戸で囲まれた内と外とを結ぶ「コート」を設けた。
 伝統的町家の格子は、開閉することによりその時々の機能をもっていた。商いのため、祭りのために格子は開け放たれ、閉鎖的に見えた外観が一瞬のうちに変化する。格子を可動にすることにより、いろいろな使い勝手があるだけでなく、建物の表情自体が変化し、道行く人々に風情を感じさせていたようである。
 そのイメージを引用し、新たな風景を創ることができた。時間・季節・天候などによって違った角度でお広前に入ってくる光と影は、様々な表情を見せてくれるであろう。 

(4)色・素材・ディティール

 塗壁の実際の色は薄いグレーなのだが、床の色が黄色みを帯びて反射するので、和らいでくる。光の当たり方でも微妙に変わり、全体として白に見えてくる。壁の色は、人や物の背景として目にうるさくないように考えた。
 線が多く見えるとごちゃごちゃするので、枠廻りは目立たぬ納まりにし、 玄関戸やお広前の間仕切り障子の縦枠、廻り縁などはあえて付けずに、無駄な線を極力排除し真に生きている線を探し求めた。

(5)障子

 冬は暖かく、かといって紙は呼吸しており、ガラスのように密閉された感がない。
太陽光も柔らかく通し、外に洩れる明かりも優しい。
 細い木の骨と紙の構成、この繊細さ故に心の落ち着きと優雅さが生まれて、日本の心が少しここにあるように思える。

(6)省エネ配慮

 建物全体を通じて自然採光・通風が得られようにして、できるだけ機械に頼らないようにした。どんな光が差し込み、どんな眺めがあり、気持ちのよい風が流れるかどうかが重要だった。

5.構造計画

 一階が鉄筋コンクリート造、二階が木造の混構造にした。
鉄筋コンクリート造は、耐久性、耐震性、外部や二階に対しての遮音性、曲面壁・自立壁への対応、などの点で優れている。
 二階の木造は、一階の柱割に左右されない自由な間取り、室内に柱型が出ないこと、建物全体の軽量化、経済性などの理由により採用した。二階建てにしたことにより防火上の規制も緩和され、木造が可能になった。

6.外観について

 周囲の街並み・風景の中に宗教施設としての存在感を示すために、あえて装飾的な主張をせずにシンプルな形態にすることによって、緊張感のある引き締まった空気を創り出そうと考えた。
 その方法として「円弧の壁と二枚の自立壁」設けた。無表情なコンクリートの大きな円弧は「無限の可能性・未来への発展」というような意味をもち、柔らかく人を迎え入れるであろう。そして角地という敷地特性を生かし、正面と側面という位置付けをせずに二方向に開かれた豊かな表情にすることができた。
 街に対して曖昧な閉じ方をする格子戸の存在や、塀やフェンスを設けていないこと、オープンで緑のある駐車スペースなどにより、人の気配を外からうかがい知ることのできる教会になった。
 人々を優しく包み込み、風雨に耐え、今後何十年とこの地に生き続けていくこの教会が、どのように一人歩きを始めて、どのように朽ちていくのか、その姿をこれからもずっと見守っていきたい。